ニューヨーク5番街の専門店や、サックスフィフスアヴェニューのような高級デパートには50万円程のパーティードレスが豊富にある。あっという間に経済規模を2.5倍に伸ばしたアメリカ経済。勿論万人が潤った訳ではないが、貧富の差も益々広がっている。格差という視点から言えば、アメリカも日本も既に格差社会であり、クリーニングに関しても、日米共全く出さない人と出す人がはっきり分かれ、安売りに動いた中間層は激減している。そんな中、今アメリカで誰をターゲットにして、どんなものがいくらで売られているのかを調べながら、富裕層が集結しているマンハッタンの高級クリーニング店を訪問してみた。

家賃が月300万円は下らないマンハッタンの一等地に、ゆったりとしたピックアップの店がある。一際目を引くのが、受付の紳士の上品な言葉遣い。まるで5つ星ホテルのコンシェルジュのようだ。店の内外は一般的なクリーニング店の様相ではなく、配色や照影まで高級感が演出され、仕上がったものは、まるで売り物の様に美しく置かれている。

 

テーラリング

外から窓越しにテーラリングの技術者がミシン作業をしている。テーラリングは日本流に言えば「お直し」であるが、高級店では日本の幅だし・丈つめの「修理」のレベルではなく、身体に完全にフィットさせるまでの技術の事で、熟練した技術者が行っている。ウエディングドレスを意識した4畳半ほどの四方鏡張りのフィッティングルームと、サイズ合わせの為のスペースがまた4畳半ほどあり、料金も高いが技術的にも雰囲気的にも差別感満載である。ここで注目すべきは「テーラリング」だ。現在の日本の修理レベルは、誰でも出来る簡単なレベルであるが、誰でも出来れば、供給過多から料金競争に陥り、それを求めるのは低所得層という悪循環に陥ってしまう。富裕層は修理してまで同じものを着続けず、新しいものを購入する。ここでフォーカスすべきは、一段上の上位客の需要だ。ポイントは、「修理」を簡単な婦人服のオーダー(注文縫製)を受けられる位のテーラー(仕立て)技術迄スキルアップさせる事だ。高級衣料を持っている上位客は、そういう技術の提供を求めている。

 

高級衣料が集まる仕組み

工場は、マンハッタンから車で30分程の所に、広大な最新設備のものがある。テーラリングのミシン群の裏には、それこそ50万円もする様なパーティードレスやカシミヤ・高級衣料・毛皮類が山とある。レザー毛皮類は、工場内で洗われていて(ロイヤルトーン)、空調付きの保管庫には、有名女優のドレスがずらり。背広上下のプライスを見ると、プレスのみで6千円!大きなシーツと枕カバーなどのセットが集配付きで1万8千円であった。では、どうして高級衣料が集まるのか?先程の受付の紳士の品の良い英語にヒントがある。答えはターゲットを絞ったマーケティングだ。シャネルやエルメスの様な一流の衣料品メーカー、富裕層が出没するクラブや美容関係、ウエディング業界等々と常に親密な関係を保ち、自社の品質や技術を絶えず発信し続けている。その発信手法も専門のマーケティング部が行い、大手から引き抜かれたマーケティングディレクターが担当している。また、従業員も厚遇され、皆キビキビ動いている。ライバルも多く、競争も熾烈だが、大きく稼いでどんどん維持費につぎ込むこの経営戦略、生々しい生存術を感じた。

 

クリーニング村の掲示板か世界のトレンドか?

「木を見て森を見ず」という諺がある。クリーニングの情報は業界紙・展示会・同業者の会合からのみ得るのであれば、まさに、この諺が当てはまるだろう。3年経つと世の中激変する時代、それも家庭洗濯が増え点数が減っているという現実の中での激変だ。アメリカのクリーニング店の店頭で「しみ抜き」の看板をあまり見かけない。しみ抜きなど当たり前の事だからだ。ひどいシミの修復費に多額を支払うより、新しいものを買ってしまう。「固定観念」に縛られ続け、業界内しか見ないと、既に変わってしまったお客の価値観について行けない。「どこでも同じ様に見える店には、怖くて出せない。どこかいい店ないかしら?」という品質志向の利用者の実に多い事か!多少料金が高くても、品質が良くいい気分で利用できる店を作るべき!と、今回アメリカの現状から日本を見て思った事である。