厳しさを増す現状

先月のアメリカのクリーニング業界紙によると、2020年4月にアメリカではクリーニング店の売り上げが50~80%もダウンしたそうだ。その後持ち直しているものの、ここ2~3ヶ月は資材その他が急上昇。にもかかわらずクリーニング業者のコスト意識の曖昧さに他業種も手がけるマーケティング会社は警鐘を鳴らしている。どこの国でも料金となると、競合店ばかり気にして、経費の計算をおろそかにして適正料金を取らない傾向にあるようだ。しかし健全な経営をする為には、他店を気にせず、賃料・人件費・光熱費・通信費・資材費・機械や店舗の維持管理費・保険料など必要経費の上に利益を乗せ、適正料金を作る事は当たり前のこと。その利益も時間あたりの生産量まで計算しなくてはならないが、きっちり計算出来ている業者は少ないようだ。お菓子を作る業種であれば、大きさの調整も出来るが、この業種はそれが出来ず、経費を節約した後は、結局値上げをせざるを得ない。しかし、客離れを恐れて値上げを渋るのは、アメリカの業者も例外では無いようだ。だが急上昇の諸経費を考えると、「上げるのは最後の手段」などと言ってはいられない。値上げせずにいると、当然得られる利益や将来の有望性まで犠牲にしてしまう事になるからだ。事実、米業界紙には、種々の資材メーカーから、「もう今の価格は限界です。クリーニング業者側も料金を上げないと、利益を確保出来ないと危惧しています。末端ユーザー向けに現状を知らせるデータのプリントアウトも用意してあるので、それをお店に貼ってお客さんに理解して頂きたい。」と言うメールが届いているという。値上げする理由を明確に説明すれば、お客は納得するはずだ。それでも、値上げせず、利益が減ってスタッフの給料まで減る様な事になれば、それは最大の間違い(huge mistake)。良いお客と自慢出来る仕事は会社の財産、一夜にして出来た訳ではないし。もしその一翼を担ってきた従業員がいなくなったら、全て1からやり直しだ。(因みに日本でも目利きの社員がおらず、パートだらけの工場も少くないが)また、資材やエネルギーも、もはや地消地産ではなく、常にグローバルな不安定要因が付きまとうので、それを見越して年1%の値上げを続けてきた大手業者もあるそうだ。

 

マーケティング費は先行投資

こんな時に重要なのが、広告や個々の顧客へのコミュニケーションなどのマーケティングだ。経費の削減も良いが、この項目まで減らすと、逆にライバルにとっての絶好のチャンスとなる。広告や顧客とのコミュニケーションが希薄になった会社の上位20%のお得意客を、ライバルがゲットする為に、「先行投資」として十分なマーケティング戦略に出る。またここでお金をかけて対策を講じておけば、コロナで疎遠になりかけの顧客や一旦離れた顧客に、こっちを向いてもらう良いチャンスになるし、営業内容をアピールする事も、お客の要望を聞く事もできる、とマーケティング会社の担当者は語る。

 

上位20%の得意客の意味

他産業に精通するマーケティング専門業者が言う「上位20%の得意客」には、深い意味がある。もはや米国では、いや日本もそうだと思うが、庶民は自宅で洗える物を着て、あまりクリーニングに出さなくなっている。ただし、お金にゆとりがある層は、どの産業でも得意客で、クリーニング関して言えば、彼らの服選びは価格より素材の品質や風合を重視するので、その品質や風合いをクリーニングで再生し、彼らを満足させれば、高料金でも問題無い。日本でも品質を求める上位客難民が多いが、彼らが固定客として取り込めれば、売り上げも安定する。因みに2・8(にはち)の法則はご存じだろうか?上位2割の上位客が全売り上げの8割を占めるという事。これが深い意味で、全業種共通で昔からある。年がら年中、何が100円とか何が半額とかいう漠然とした安売り業者は、近い将来淘汰されるであろう。ポストコロナの「今」のタイミングで、マーケティング戦略を強化し、技術的にも上位客の高級品を取り込んでいける体制を作る事が、最重要課題であり自然な流れだ。